生活クラブ生活協同組合神奈川は2026年3月14日、単身女性を対象とした直営のケア付きシェアハウス「Nagomo(なごも)矢向」に関する居住支援調査研究の効果検証報告会を開催した。福祉関係者や組合員がオンライン・リアルの両会場に約60人ほど集まり、若年女性の居住支援の現状と、生協がこの問題に取り組む社会的意義について、専門的な見知から深い議論が交わされた。(取材:宮島真希子)

「ハウス」から「ホーム」へ。Nagomo矢向が目指すもの
生活クラブ生協神奈川は、2023年度中に居住支援法人を取得し、2024年4月から正式に神奈川県より「居住支援法人」の指定を受けて活動を開始している。
横浜市鶴見区矢向にある同生協の配送センター3階を改修し、2024年7月に誕生した「Nagomo矢向」は、住居を喪失した、あるいはその恐れのある16歳から40歳までの女性を対象としたシェアハウスだ。全6室の居室のうちの1室は緊急避難的に利用できる「緊急利用室」として活用することにしている。
最大の特徴は、単なる物理的な箱(ハウス)の提供に留まらず、人と人との関係性が加わった「居住(ホーム)」の構築を目指している点にある。生活クラブ生協とつながるワーカーズコレクティブのメンバーによる週2回の食事作りと共用部の清掃や、季節イベントへのボランティアの参加による「多様な大人たちの緩やかな見守り」を軸に、入居者が最長3年の間に心身を癒やし、自立への一歩を踏み出すための伴走を続けてきた。
なぜ生協が「組合員ではない若年女性」を支えるのか
生活クラブが居住支援に乗り出した背景には、現代社会における深刻な「孤立」がある。特に若年女性を巡る環境は、18歳を境に児童福祉の枠組みから外れる「社会保障の陥没期」にあり、家族がセーフティネットとして機能しない場合、彼女たちは瞬く間に居場所を失う。
「食・エネルギー・ケア」を自給する運動を続けてきた生協にとって、生活の基盤である「住まい」の問題は、もはや避けて通れない課題だった。生活クラブ神奈川の伊藤保子氏は、「住まいがあって初めて人生が始まる。住居を保障する視点を持った地域づくりが必要だ」と、生協が居住支援法人として取り組む意義を語った。
当事者のリアルな人生を可視化する調査研究
今回の報告会では、入居者6名への継続的なヒアリングに基づく調査結果が発表された。調査対象としてヒアリングに応じてくれたのは18歳から26歳の女性単身者で、うち20歳以下の居住者が5人を占めた。
分析には、時間の経過に伴う人生の分岐点や変化を可視化する「複線径路・等至性モデル(TEM)」が用いられた。これは調査する側と調査される当事者がともに対話を重ねながら、人生の分岐点を振り返り「選ばなかった選択肢」についても十分に言語化をする方法だ。
調査からは、虐待や家族との不和、不安定な雇用といった過酷な背景を持つ若者たちが、「安心できる場所」を求めてNagomo矢向へ辿り着くまでのプロセスが浮き彫りになった。当初は心身の疲れから「ただひたすら眠るだけ」の時間を必要とする入居者も多いという。しかし、この1年半の実践を通して、安心できる一人の場所での休息は「若い女性たちが回復するために、かけがえのない時間なのだ」と伊藤さんは理解したという。
専門家が語る「ケア付き」の価値とコミュニティの芽生え
登壇した3氏の講演では、居住支援の多面的な効果・価値に言及があった。
大谷大学講師の岡部茜氏は、他者と住むシェア居住における「煩わしさ」が、反転していく契機について触れた。害虫の発生や設備の故障といった、自分一人では解決できない「困難な暮らしの出来事」が、実は他者を頼り、助けを求める重要な契機(受援力の醸成)となる。こうした日常の小さなトラブルを共有することが、「シェアハウスの煩わしさ」を、同居人やスタッフとの新たな関係の始まり、すなわち小さなコミュニティの芽生えへと変えていくと説いた。
立命館大学教授の斎藤真緒氏は、「家から離れる権利」の重要性を強調した。家族内の軋轢で居づらさを抱える若者にとって、Nagomo矢向のような「実家でも一人暮らしでもない通過先」が存在することは、生存戦略としての新たな「親密圏」の構築を意味する。
伊藤保子氏は、具体的な手出しを最小限に留める「ケア付き」のあり方を提示した。それは、「何でもしてあげる」ことではなく「いつも誰かが気にかけている『隣人』を増やすこと」だと指摘する。その安心感の中でこそ、当事者は自分の人生を自分で決める力を取り戻していく。
組合員の共助が生む「Housing Gift」の力
この活動を支える大きな原動力となっているのが、組合員からの寄付金「Housing Gift(ハウジングギフト)」だ。2024年度(全3回実施)は 目標金額の1.23倍となる、総額3,138,000円、2025年度(全2回予定) 第1回(5月)の時点で522,300円が集まった。
この寄付金は、緊急利用室の運営や、退居時の新生活用品の贈呈に充てられた。これは、制度の隙間で苦しむ若者たちの未来を、組合員の「お節介」と「共感」が直接的に支えている証と言える。
報告会を通じて示されたのは「住まいは権利である」という視点と、それを支える多様な関係性の交差点(ハブ)としてのシェアハウスの重要性だ。様々な困難を抱える若者たちが、シェアハウスでの生活を通じて「助けて」と言える力を養い、再び社会へと歩み出す。Nagomo矢向の挑戦は、ケアに満ちあふれた地域社会をデザインするための、確かな礎となっている。
関連サイト
生活クラブ・神奈川 居住支援を考える学び Part2Nagomo矢向キックオフフォーラム 「女性と居住を考える」〈YouTube〉
